トレッキング中の生活
 
ロッジに着くと、助手のシェルパが荷物を部屋に運び入れ、部屋前に湯を張った洗面器を配る。顔や手足を洗うと、アフタヌーンティーが用意され、その後は夕食まで自由に過ごす。朝は大きな盆(竹製で布で覆ってある)にマグカップとヤカンを持ったシェルパ助手二人がドアをノックしてモーニングティーを配り、次に洗面器がやってくる。 食事はキッチンスタッフが炊事用具、調味料、食材を背負い籠にいれて運び、ロッジの自炊用のキッチン(多く別棟)を借り、三食を作る。

 メニューは出来る限りトレッカーの嗜好に合わせるという。例えばタダパニで同宿の台湾のトレッカーは中国風の料理とサービスを受けていたし、ドイツ人親子パーティーはキッチンに入って味見をしていた。また前回(ジョムソン)は散らし寿司の素を持参して寿司を作ってもらった。基本はインド風の欧米スタイルで、例えばインド風の薄焼きセンベイがパン代わりに食事の始まる時に供されたりするが、構成はスープ、メイン皿、デザートである。

 食器はステンレス製で、各人用にマグカップ、ボール、ミート皿、フォーク、ナイフ、大小スプーン、箸が用意。飲み物は紅茶、日本茶、熱湯が毎食後ヤカンでサービスされ、粉ミルク、インスタントコーヒー、ココアも常備。卓上調味はケシャップ、マスタード、チリソース、醤油、塩、胡椒、朝食用に蜂蜜とマーマレードである。 メニューは朝はトーストやパンケーキ、卵料理あるいは缶詰の魚や肉類、野菜炒め。日本人にはご飯や、頼めば粥を作ってくれる。昼はヌードルスープや野菜スープ、つぎにメインとしてミート皿に盛り合わせた缶詰の魚肉や肉のソーセージ、野菜、馬鈴薯、スパゲッテイなど。別の大皿にチーズや生の人参、大根、胡瓜が供されることもある。

 夕飯の構成は昼と同じで、スープ、オードブル風のもの、メイン皿、生野菜皿、最後にデザートが加わる。メインは少し手がこんで、モモ(蒸し餃子)、チキン、ヤク、山羊の肉のカレー風味の煮込みやバーベキュー風、温野菜、パスタやコメ料理が組み合わされる。デザートは缶詰の果物が多いが、トレッキング後半に2度、手製のケーキやアップルパイを焼いてくれる。オーブンがないので、鍋の上に炭などを置いて焼くのだそうだ。

 食卓はお天気がよければ、原則的に屋外に設置される。持参のテーブル掛けを掛け、各人の食器、カラントリーを並べる。中央には前述の各種調味料と飲み物の瓶や缶が置かれる。料理は鍋あるいは容器に移し換えてキッチンから運ばれ、シェルパ達が個々の料理を盛り付ける。シェルパ助手が一人残って背後に控え、お代わりなど給仕しくれる。

 食材は缶詰、瓶詰、乾物に加え、卵、肉類(鶏、羊、山羊、ヤク、水牛)、野菜は通過する村で調達するようだ。野菜は大根、胡瓜、人参、玉葱、カリフラワーが毎回何かしら形を変えて供され、それにインゲン、葉物が畑から直接採ってこられ茹でたり炒めたりして出てくる。日本人に教わったといってワラビのお浸しも出た。野菜は外見こそ東京の野菜に見慣れた目には貧相だが、調理されたもの、生のものも実に美味しい。生で供する場合は仄かに甘い酢で洗ってあるように感じた。肉類もとくにヤク、水牛は食べ慣れないため勇気がいったが、脂っぽくない牛肉というかんじで、しかも硬くない。鶏は庭先で放し飼いのものを締めたもので、脂身がなく締まって癖もなくとても美味しい。


アンナプルナ紀行