7月5日(木)晴れ 食欲旺盛なインド人団体、悪路をシャペル・ベンシへ。健気な少年

 6時30分 トレッキングの荷物とホテルに預ける荷物をまとめ、朝食に食堂に降りるがインド人団体で一杯。席もバイキング方式の食ものもほとんど空。インド人達は皿を片手に次のサービスを待って空の盆の前に群がっている。はじき出された私達や欧米人カップルは中庭へ。チャイとバナナ、パンケーキ、僅かに残っていたインド風マメ料理を食べる。夜半の雨で芝は湿っていたが木々が洗われ気持ちがよい。

 7時10 分 出発。昨日の説明では、途中土砂崩れがあったため小型車で出発、途中から大型車に乗り換えるとのことだったが、大型バスでの出発である。通行可能になったらしい。昨年のアンナプルナ・トレックでサーダーを務めたダワさん、そしてシェルパのマンガルも同行するとのこと、ホテル玄関前で再会を喜ぶ。バスの外観は屋根にトレッキング用の荷物が積まれているのを除けばかなり立派である。しかし中に入ってあっと驚いた。座席は錆びた鉄枠むき出し、シートの形は崩れ、布はよじれ、汚れ、手もたれもガタガタ、錆びたビスが飛び出したまま。天井に取り付けられたテレビ用の“箱”にテレビはなく、ボロ布や私物が乱雑に入っている。窓もスムーズには開け閉て出来ない。シートに座るのを一瞬躊躇する。車内は後部座席の荷物やポーター達の体臭でむっとする。見回ってきたリンジが窓を“怪力”で開けてくれる。こうして予定より10分遅れて出発する。

 人と車で大混雑のカトマンドゥを抜け郊外に出る。緩やかな登り坂がつづく。左手は鬱蒼とした森の中を、国王の別荘の長い塀が見え隠れしてかなり続く。沿道には南国の草花、ランタナ(ピンク)やルリパゴダが繁茂し、ところどころに大きな竜舌ラン(?)がアクセントをそえる。

 次第に高度が上がり、眼下に広い谷底が開け、対岸の山腹には段々畑が続く。11月のジョムソン街道、3月のアンナプルナ山麓と違って山腹は緑に覆われ、段々畑の各々の境が曖昧である。遠目に目を凝らすと麦やトウモロコシが植わっているらしい。カカニKakani峠(2073m)を通過し、出発から1時間余りたった頃遙か遠く雲の合間に雪を頂いた連山が見え始める。8時25分ラニパウワRanipauwa村でバスを止める。横に広がる雲を突き抜け正面左からランタン、ゴサインクンドの白い頂き、雪のない黒々としたロールワリンが素晴らしい。

 更に走ること2時間近く。車内の汚れにも慣れ見るとは無しに見ると、前方運転席脇の座席にはリンジ、シェルパ、コックが座り、後方座席にポーターやキッチンボーイがいるらしい。ダワさんは私達と同じ座席。職種と位階が住み分けられている。戸口は開け放したままで、年の頃12,3歳の少年と青年が立っている。運転手を含めた彼ら男性の黒髪が襟足できれいにカットされている。仕事に就く時の彼ら流の身だしなみなのだろうか。私の目は戸口に立つ少年の働きぶりにいく。均整のとれた目鼻立ち、浅黒く日に焼け、きりっとした表情、美少年である。それに小さっぱりとしたチェックのシャッツが少年らしい。狭い道を車がすれ違う時や、山道の路肩の確認など、半身を乗り出したり、路上に降りたりして、車体をパンパン叩いて、車を誘導、暢気に道を塞ぐ山羊の群や牛、鶏などを追い払う、またチェックポストでは素早く降りて記帳、やることに無駄がない。

 10時15分ブーゲンビリアの咲く木陰のニッパ小屋の前に停車、車が何台かひしめく。チェックポイト(Bidur)である。車両番号、人数など登録するらしい。戸口にいた青年はここで何個かの小包と共に下車。ここまで便乗したらしい。

 まもなく川沿いとなり、街道沿いの村トリスリTrisuli (635m) に到着。屋台や商店が並ぶ。まだ10時半だがここで昼食とのことで食堂の前に横付け。河に面した奥の小部屋に案内され、持参のタメールの日本料理屋「ふる里」の弁当を開ける。隣のテーブルではネパール人男性が 器用に右手でカレーとご飯を混ぜ合わせて口に運んでいる。道路に面した大部屋のリンジやダワさん達も手で食べている。食事中の彼らをみるのは初めてだ。階下の中庭に蛇口付き大きな水タンクがあり、食事を終えた人が降りてきてはそこで手を洗っていた。室内は薄暗く涼しいが、中庭は太陽がかっと照りつけ暑い。ここでも小柄な少年がホースでステンレスの食器を洗い、シートの上に並べている。自然乾燥日光消毒というわけだ。彼も働き者で、トイレ使用者が出るとすぐに水の入ったバケツでトイレ掃除。お陰で粗末なトイレの内部は清々しかった。

 ここから道路は未舗装、しばらく白濁した流れの速いトリスリ・ナディ(河)に沿って走り再び山道に入っていく。車内はひどく暑い。揺れは激しさを増し、食後の眠気もすっ飛び、脇のザックが滑り落ちないように支え、ガタガタの手すりに掴まる。エンジンを噴かし、急発進を繰り返し、1時間ほどたって運転手交代。途中の村で停車して、少年が、時にはリンジも降りてエンジンに水をかける。車がすれ違うにも車体間が10 センチもあろうか。路肩を外したら下は千尋の谷、トリスリ・ナディの急流である。少年は車の屋上にある荷物を点検するため走行中にもかかわらず何度も屋根に登る。平衡感覚に驚嘆する。かとおもうと道に転がる大きな石を取り除くために車から飛び降り、車の先を走る。ラムチェRamuche(1790m)付近の悪路はとくにすごく、狭い道に大きな石が転がり、急坂の急カーブ、思わず腰を浮かすが、無事ハンドルを切った時は全身の力が抜けるようだった。ネパールの運転手は本当に凄い!  トリスリ・バザールから3時間半。ダンチェDhunche(2030m)のチェック・ポイント に着いてほっとする。軍の施設があり鉄条網が張り巡らされ、ゴサインクンドへの登山口がある。車で5分ほど先にあるダンチェ・バザール、「ランタン・ヴューホテル」のテラスで紅茶を飲み一息入れる。再びバスに乗り、遙か下方に小さくかたまる、谷底の村シャブル・ベンシSyabru Bensi(1460m)を目指し、急斜面をジグザクと下ること1時間30分。ロッジが並び、狭い村道に2-3台バスが駐車し、山羊の群れや鶏がうろちょろ。時折山羊らを追い払うクラクションが谷間に鋭くこだます。

 芝生の前庭がある2階建ての「ブッダホテル」。可愛いグレーのテリアが出迎え。電気もあるし共同シャワーもある。夕食後スタッフの紹介。当初のシェルパガオン経由を変更し、直接ラマホテルからランタン村へ、そしてランタン村で2泊することになる。2階の室内は夜になっても蒸し暑い。



トリスリバザール・私たちのバス



トリスリバザール



トリスリバザール:八百屋



ラニバウア村より

ランタン紀行