7 月6日(金)晴れ 激流に沿って森林帯を黒犬のお供でラマホテルへ

 
7時40分 ホテル発。学校(?)の前の広場を抜け、河辺のチェック・ポイントを過ぎ、ボーテ・コシBhote Koshiにかかる長い吊り橋を渡る。まもなく狭い石畳の道をはさんで両側に古いチベット式民家が並ぶ村に入る。一階は家畜小屋、ハシゴを数段を登ると居住部分で、入り口と窓は小さく飾り彫刻が施されている。石畳は家畜の糞で一杯。全く新しいものが加わっていない家の佇まい、住まい方である。異世界に入り込んだようで、思わず足早になる。

 振り向くとタルチョがはためくシャブル・ベンシの村が山腹に張り付き谷間深くに沈んで見える。いよいよランタン谷のトレッキングの始まりだ。  ランタン・コーラに沿って左岸を、森林の山道を進む。先ほど通過した村から黒い犬がついてくる。どこまで付いてくるのだろう、心配になる。小休止すると、みんなの真ん中におとなしく座っている。リンジの話では餌を目当てにトレッカーに付いてくるのだそうで、スタッフは別に気にする風でもなく、時には頭を撫でたり犬もリンジ達も全く自然体で付き合っている。

 道端には紫のジンジャー、白い花、あっアネモネだ!湿った岩肌の間にはサトイモ科の観葉植物の原種(ゴナタンサス・プミルス)もある。竹が繁茂しているが日本のものとは違う。森の下草に大きなショウガ科の葉(ヘディキウム・スピカツム)が茂っている。大きな白いジンジャーの花(ヘディキウム・エリプティクム)をリンジが見つける。名残のシャクナゲも咲いている。

 苔や寄生植物が幹をびっしり覆うシイやカシ類の薄暗い森の山道のすぐ脇をランタン・コーラの白濁した水が轟音をたて逆巻き、飛沫を飛ばし、滝状になり、うねり、逆流し、先を争うが如く目も止まらぬ早さで流れる。瀬もなければ、淀みもない、ひたすら先を争い、激突しながら流れ去る。水量の多さ、速さ、耳をつんざく流水音に生きた心地がしない、落ちたら最後助かる術はあるまい。この凄まじいランタン・コーラはトレッキング中ずっとついて回った。部分的に道が谷の上を巻き、流れが下方になる時、轟音が遠ざかり、激流が眼下となり、やっと恐怖の緊張が解けるのであった。

 ドーメンDomen(1672m)で一休み、吊り橋を渡り右岸へ。再び樹林帯の中を行く。昨日の車中の暑さにやられたIさんは今朝から顔の所々が赤く、一歩一歩が苦しそうである。
 昼食予定地のバンブーBamboo(1970m)までまだほど遠い。崖の中腹にある崩壊地Lande slide(ネパール語でPaio、約1800m)のロッジ「ナマステ・ホテル」でラーメンを食べる。ロッジを出ると間もなく対岸に巨大な岩壁が空を覆うようにせり出し、谷にはこれまた巨岩が転げ落ちるように占領している。「崩壊地」という地名はこれに由来するのだ。何百年もまえに対岸の崖壁が崩れ落ちたのだろう。迫り出た岩壁にハチの巣がある。上からロープで降り、ハチミツを採取するという。命がけの仕事だ。途中、山道が河に崩れ落ち、上部の薮を巻く。崩れた道を行こうとした“黒ちゃん”はダワさんに呼び戻されて一緒に薮道を行く。登りがきつくなる辺りでキッチンスタッフがヤカンに温かいオレンジジュースを入れて待機していてくれる。この頃から雨が降り出す。ヒルに遭遇(ちっちゃな尺取り虫みたいだった、リンジがすぐ取ってくれる)

 広い河原に出る。本降りとなる。バンブー・ロッジ が雨に煙る。“黒”はロッジの前で、全身雨に打たれて行儀よく座っている。 ラーメンを食べてまだ1時間半、お腹は一杯だったが、エネルギー保持のため昼食をとる。先に食事を済ませていた欧米系の大柄な父娘(60歳と20歳位)が雨の中“Good luck!” と元気よく出立。このカップルとはこれから2度遭遇する。ダワさんによると、娘さんは18 歳で、母親がインド人とのこと。

 バンブーを出て、“黒”が見えないので心配していると、後ろから追いついて先頭のダワさんのところに行く。雨も上がり1時間ほど登り下りを繰り返し、吊り橋を渡り左岸に出る。再び1時間半ほど登り、やっとのおもいで山頂らしきところに着く。リムチェRimche(2455m)。Gさんは熱があるとか、かなり参った様子で茶屋のテーブルに俯せる。Iさんの顔もまだ赤い。リンジが裏山に山山羊を見つける。私は双眼鏡で確認。お茶を飲んで、最後の勇気を振り絞って宿泊地ラマホテルLama hotel(2410m) に向かう。30 分程よたよたと歩き一段と激しく逆巻くランタン・コーラの岸辺に降り立つと目の前にラマホテルのロッジが数軒見えた。宿泊者は私達グループとガイドを連れたドイツ人カップルだけのようだ。

 夜8 時頃、歯を磨きに外に出ると、山合いの狭い空は満天の星というより星がぎっしり。こんなに沢山星を見たのは生まれて初めて。明日は七夕、ランタンの大空に天の川を期待する。夜、河の轟音に不安がかき立てられ、しばらく眠れない。



長い吊り橋を渡る



シャブルベンシ・旧村-1-



シャブルベンシ・旧村-2-



シャブルベンシ・旧村-3-



黒い犬はいつも一緒



樹林帯の中を行く-1-



樹林帯を行く-2-



ランタン・コーラの激流-1-



ランタン・コーラの激流ー2



ドーメン入口




ラマホテル入口


ランタン紀行