7月9日(月)晴れ キャンジン・ゴンバへ イエローポピーとプリムラの群落
 
 昨日と同様、5時頃は霧が晴れるがすぐに白一色何も見えなくなってしまう。急いで食堂前の草地に降りる。ランタン・ルリンが真っ白な先峯だけを岩稜から覗かせている。黒々とした岩稜と朝日に輝く真っ白な先鋒のコントラストが神々しい。ガンチェンポも素晴らしい。

 出発前、全員(一部ポーターは既に出発)で、ドンホセ少年、ママも加わりそして“黒”も真ん中に座って記念撮影。“黒”は嬉しくなって駆けめぐりマンガルもけしかける。不覚にもドンホセ君の足蹴につまずき、そのまま走り去ってしまう。私はちょっと彼を睨む。

 朝露に濡れる昨日の散歩道を辿り、チョルテン、長いメンダンを通過。GさんとSさんは写真撮影のため遅れがちになる。小さい氷河を渡り古いランタン村ムンドゥMundu(3410m)を通り、平坦な乾いた道を太陽を浴びながら歩く。ダワさんは大きな傘をさす。すれ違った子連れの村人が譲って欲しいと話しかけてくる。ネパールの手提げ(でなくて頭提げ)に水筒をいれた美しい娘さん、“頭提げ”に枯れ枝をつっこんだ老人らとすれ違う。周囲は大麦や馬鈴薯畑。ピンクや白のバラ(ロサ・セリケア)の木、道端の草地にはアネモネ・リブラリス、ジンジャー、アヤメ、紫のユリ科の花(ノトリオン・マクロフィルム)、オレンジ色のアブラナ科の花(エリシムム・メリセンタエ)、ピンクの可憐なサクラソウ科のツルハナガタ(アンドロサケ・プリムロイデス)、マメ科の黄色(ロトゥス・コルニクラトゥス)や紫の花(ケスネヤ・クネアタ)など。

 既に花は終わっているがアルプスのアルペンローザと同種と思った灌木。花は赤紫。実は小型シャクナゲ(ロードデンドロン・レピドツム)で、8月にまた咲くそうだ。行く手にはランシサ・リ(6,427m),ガンチェンポが見える。バンブーで出会った父娘がキャンジン・ゴンバから下ってくる。日焼けた顔に満面の笑みを湛え、周囲の山が全て見え、花が美しくて素晴らしかった!と。闊達で仲のよい親子である。長いメンダンを通過。次の集落シンダムShindum(3410)ですっかり姿が見えなくなってしまった後続隊を待つ。9時頃迷彩服の兵隊さん15人くらいが朝の訓練なのか、走って追い抜いていく。またもや見えなくなった後続隊を待つがこの頃からランタン・リルンに雲がかかり始めて遂に隠れてしまう。

 大きな岩影に小さな無人小屋。タルチョが掛けられた岩の上にヤクの角。ポーター等が昼食などに利用するのだとか。ランタン・コーラを隔てた向いの岩ごろごろの山稜にタルチョが見える。前方の円錐形の山頂チョルカ・リにもタルチョがはためいている。よくあのような急斜面に、とおもう。

 突然右手の草原がピンクに染まっている。小さなトラノオのようだが、タデ科のピストルタ・マクロフィラの群落である。よく見ると同じピンクのツルハナガタも混在している。そのためこのピンクの花畑が微妙な高低差と濃淡でより美しいのだ。こちらに目を奪われているとなんと左手のなだらかな斜面は黄色一色、キンポウゲの群落である。

 少しづつ高度を上げ、ランタン・コーラの流れが目に入る辺りの岩陰にぬっと黄色いケシが。(メコノプシス・パニクラタ)あっと驚くすぐ先の道ばたにも。そのすぐ上の斜面には何株も林立。大きな株は背丈ほど、いっぱい花をつけ、鈴なりに実をつけ、トゲトゲしい毛が生えている。不思議と低木の根元に,ところ狭しと“君臨”している。興奮もややおさまり、ふと目を河の方向に向ける。またもや黄色い花の群落。黄色いケシ?双眼鏡で覗くと、プリムラではないか!足場のわるい斜面を降りる。清らかな水辺に沿ってあちこちに背丈5〜60センチのプリムラ・シッキメンシスが風にそよぐ。その可憐で豪華な美しさは黄色いケシを忘れさせるほど。ランシサ・リ(6427m)も綺麗だ。自然の庭園のなかでうっとりと時を忘れてシャッターを押し続ける。上の道をドイツ人カップルが晴れやかな笑顔で過ぎていく。

 プリムラの“自然庭園”がおわる辺り、バラの木のそばに水車式マニ車の祠。その先のコーラの岸辺の台地には石積みとタルチョが懸かる。墓だそうだ。 勿忘草(ミクロウラ・シッキメンシス)、シオカマ(ペディクラリス・ピラミダタ)、赤紫のフウロ(ゲラニウム・ドニアヌス)、アカバナ科の花(エピロビウム・ラクスム)、モリナ・ロンギフォリア、アスターに良く似たエリゲロン・ムルティラディアトゥス、紫色のカラマツソウ、ナルコユリ風の花(ポリゴナツム・キリヒフォリウム)、ミントのような香りのシソ科の草(エルショルチジアイ・フルティコサ)など次から次へと現れる。
 石垣に囲まれた無人の茶屋(貧しい学生が運営と看板にある)の前庭がキンポウゲでいっぱい。みんなご機嫌でオートシャッターで記念写真。

 氷河から流れる川を渡り、少しづつ高度をあげる。石混じりの乾いた道端の草地には背の低くなった白いアネモネやアスター、テンナショウなどが花園を作っている。地味ながら岩肌の色と同じウスユキソウの淡い緑色が美しい。

 ランタン・リルン氷河が見える草地でごろりと横になり昼寝のまねごと、雲の流れを楽しむ。サイドモレーンの岩の間の道を登る(右上の岩の間に黄色いケシが1株)。後ろから背負い籠に銅の大鍋を背負ったドンホセ君に追いつかれる。お母さんのお使いらしい。間もなくキャンジン・ゴンパ(3730m)入口の台地につく。私達のロッジは一番奥の建物だという。左手の山腹から階段状の滝が流れ、その下にゴンパとタルチョがみえる。その下方の広場にあるブルーの屋根がチーズ小屋だそうだ。  ロッジ周辺は一面、花が終わり葉の茂るアヤメとアネモネの白い花で埋まる。

 昼食時にマンガルが毛糸の帽子を被って現れる。高度の影響で少し頭痛がするためだそうだ。  昼食後ダワさんとリンジは明日の渡渉地点の下見へ。キムシュン氷河見物は往復3時間、花はないと聞いてやめ、裏山の無名山にマンガルとナムゲルの案内で登る。馬や牛が食べない草に覆われた急登の放牧山?で小型シャクナゲやマメ科の花、テンナンショウなどで特に見るべき草花はないが向いの圧倒するような山容やランタン・コーラの湖のように広く、雪と間違えた真っ白な河原などが見渡せる。余りにも広大で静寂な風景である。暑さと虚しい登りに3820m地点で引き返して下り、緊急用ヘリポートの金網の脇を通り河原の方に出る。しかしランタン・コーラの河辺に出るには台地状の村を更に下り小型シャクナゲに覆われた広い放牧地を行かなければならない。気の遠くなるような広さで馬達が豆粒のように見える。開花期、この谷は真っ赤に染まるに違いない。

 ヤクの親子、ゾッキョ、牛がロッジの周辺をうろつく。近くの新築中のロッジの石を刻む音が規則的に響く。雨が落ち始め、ゴンパも滝も霧で見えなくなり、滝の音のみが聞こえ、ロッジ下の民家からは煙が立ち上り、女の人が石垣塀の上に焚きつけと思しき小枝の束を並べ石を置いている。夕食にお汁粉が出る。



ヤク



プリムラ・シッキメンシス



雲の中・ランシサ・リ



ピストルタ・マクロフィラ



メコノプシス・パニクラタ(黄色いケシ)



モリナ・ロンギrフォリア(マツムシソウ科)



ポテンテイラ・クネアタ(バラ科



草地で昼寝



アネモネ



ランシサ・リとメンダン



ノトリオン・マクロフィルム(ユリ科の花)



ロードデンドロン・レビドトウム(ツツジ属)



エリゲロン・ムルテイラデイアトウス(キク科)



岩の上にヤクの角



キャジンゴンパ



ランタンコーラ


ランタン紀行