7月10日(火)曇り ブルーポピーを求めて:チェルコ・リCherko Ri(4984m)
 
 ランチボックスを持って5時50分出発。大きな魔法瓶を持ったポーター頭も加わる。霧で向の山は裾野しかみえない。ランタン・リルンが姿を見せるが瞬く間に雲にかくれてしまう。
 30分ほどやや下りの平坦道を歩いて河原に着く。両側は大きくえぐれ増水時の凄まじさが想像される。リンジ、マンガル、ナムゲルに背負われて無事渡渉。

 ポーター頭を先頭にジグザグと登る。なかなかきつい。Gさん、Sさんの写真家2人とリンジ、マンガル、ナムゲルは花撮影のため次第に後方となる。時々小休止して調整。遠くにランタン村、キャンジン・ゴンパの集落、湖のような白い河原、飛行場跡(国王が使用)ランタン・コーラに流れ込む渓谷、傍らのチーズ小屋などが見え、正面の山ポンゲン・ソプク(5730m)に懸かる霧が時折一瞬途切れ、アイスフォール(ガンザアイスフォール)が覗く。
 斜面には馬の親子が草をはみながら、ゆっくりと移動している。上方は霧でみえない。足下にはキンロウバイ(ボテンティラ・フルティコサ)、その傍らにラン2種、白と紅2種のベニシタン(コトネアスター・ミクロフィルス)、赤い花茎の綺麗なベンケイソウ科のロディオラ・ププルロイデネなど。小型シャクナゲも種類が多い。

 稜線の家畜の避難小屋(カルカ)に出る。背の低い薄紫のサクラソウと黄色いプリムラ。前日のものとは別種である。リンジが瓦礫の斜面に紫センブリを見つける。温かいレモネードを飲んで一息入れる。道を外れたのか草地の急斜面を直登。足元にはスミレと見紛うマメ科の紫や黄色の花などが絨毯のようにびっしり生えている。Gさんの高度計は4200mを指す。霧よけに着た雨具で汗びっしょり。

 一時間近くの苦行、写真どころではない。少し平な場所にたどり着き休息。取りだしたカステラの包みが風船のように膨らんでいる。甘納豆の小包みもパンパン。道を探しにいったリンジが戻り、急斜面をトラバースして道に出る。周囲は霧で真っ白である。稜線の道は急な上に、瓦礫て滑りやすい。Eさんが道端にセーター植物エリオフィトン・ワリキー(エリオフィトン属)を見つける。瓦礫道と同色の灰色で、毛皮を着た小人のよう。よく見るとあちこちに、霧に濡れて“立っている”ではないか。傍らにはハクサンチドリ属(名称不明)の花も。

 ミヤマキンバイに似ているが中心がオレンジ色の花(名称未検索)の咲く急斜面をトラバースすると、目の前に一面黄金の絨毯が広がる。キンポウゲの群落。カルカが幾つか立つ。4395m、写真家のF氏がブルーポピーを探してキャンプした放牧地である。

 11時。リンジとナムゲルがブルーポピーを探しに頂上を目指し、疲れ切った私達は昼食を摂り12時に下山することになる。二人にカメラを預ける。霧で頂上は見えないが、この草原には陽が射し明るい。大きな石の転がる向こう側はピンクの絨毯が広がる。やや登った斜面にはキク科の白い花(アナファリス・トリプリネルヴィス?)が・・・思い思いに写真を撮ったり、昼寝をしたり。

 12 時に出発。稜線を下る。右側は急峻な谷で、灰色の崖が切り立つように落ち込み、底部に見える急流が、岩崖の間を縫ってランタン・コーラに向かっている。今朝渡渉した川の上流と思われる。草木も生えぬ荒涼とした灰色の世界である。一時間近く下ると左前方に白い河原が見えてくる。正面の5〜6000m級の山々はすっぽりと雲に覆われてしまっている。左斜面は緑に覆われた緩やかな谷間で、放牧地だ。黒い鳥(嘴が黄色がカラスだそうだ)が私達の眼下をゆうゆうと飛んでいる。稜線はまっすぐ伸び、遙か下方にカルカが三つ並び、その先に道が更につづきランタン・コーラに落ち込む。あすこを下るかとおもうとため息が出る。
 再び下り続けること1時間。遂に渡渉地に着く、と殆ど同時にリンジが追いつく。目指す瓦礫地は雪崩れてブルーポピーは見つからなかったが別の沢を探すためにナムゲルを残し、渡渉に間に合うように下ってきたのだという。リンジとマンガルに背負われて渡り終わった時なんとナムゲルが急斜面を転がるように駆け下りてくるではないか。ブルーポピーはやはり見つからなかった!

 仕方ないとカメラを返してもらう・・・突然目の前に、ナムゲルの手の中のSさんのデジカメに、ブルーポピーが。やはり咲いていたのだ!4600mの地点で。全部で三株、一輪咲き、二輪咲き、三輪咲きの画像を飽かず眺める。瓦礫の間に、短い茎でスクッと立ち、光を受けて透き通るようなブルーの花弁の中心に黒く先端が黄色い雄蘂の輪、サボテンのようなトゲトゲとした茎と葉と蕾の房。  雨が降り出しタイミングよくロッジに到着。夕食のデザート、リンゴにヤク・ヨーグルトをかけたものが美味しかった。



下りの稜線からランタン・コーラの河原を望む



キンポウゲの群落のカルカ



タルチョ・リとランタン・リルン



対岸の山



スタッフに背負われて川の渡渉



エリオフィトン・ワリキー



スタッフが撮影した青いケシ


ランタン紀行