6月30日(月)曇り、昼頃から雨 バターを作るヤクマン、神秘的な沼を経由してリゴナ(4098m)へ
 
 7:40出発。前日マーモットが遊んでいた斜面を登る。眼下にキャンプ地がどんどん小さくなり、馬が集められ、スタッフが忙しく立ち働く様子が手に取るように見える。
 8:00 ルンタの翻る峠ドンカチェドラ(4350m)の頂上に。きら星のように一面のピンクと白の花畑。谷向こうの山にヤクマン小屋がみえる、まずそこまで行くという。感歎とも落胆ともつかぬ溜息が皆の口から漏れる。翼があれば一飛びなのに・・・ここからはシャクナゲ一面の斜面をトラバースしながら下る。

 8:47 谷底(4140m)に、そして再び登り。三回ほど登り降りを繰り返し、その度に庭園のような小型シャクナゲやアイリスの咲く草地や湿地を横切る。小さな池も点在する。道は殆どなく、所々に大きな石や、棒きれが目印に置いたり突き刺してあるだけだ。

 9:22 私達の馬が追い越してく。9:49 無人のヤク小屋前を通過し、谷を回り込むと一面黄色の小型シャクナゲの斜面、次ぎはシャクナゲの焼け焦げの斜面、次ぎは砂礫斜面というふうに斜面の様相が変わる。谷間は針葉樹が覆う。10:00 滝状に水が落ちる砂礫地を急下降し、10:32 樹林帯にはいる(3975m)。シャクナゲは立派な立木となっている。

10:42 今朝溜息を漏らした出発点のルンタの丘が遠く正面に見える。谷をぐるっと回り込んで反対側に出たのだ。
出発の準備下方のキャンプ地と後方にチェンゼラ峠を見るく



マーモットの斜面からキャンプ地を見下ろす



ルンタの丘を谷を隔てて眺める

 11:20 ヤクの糞だらけの坂を少し急登するとヤクマン小屋に出る。ここが今朝見たヤクマン小屋である。中で男が一人バターを作っている。私はここで見聞きしたこと全てに驚き、感動してしまった。
 先ずバター作りである。皮袋(子牛またはヤクの子の胴体)にミルクを入れ、激しく何回か上下に揺すり、乳清と脂肪に分離させる。バターは瞬く間に出来上がり、木桶のなかに“首”の部分の開口部から絞り出される。まさに“石器時代”、聖書の世界、あるいは中世のそのままの製法、それを目の当たりしたのである。

 チーズの圧縮法も驚きである。外に大小の平たい石が積んである。これでチーズを脱水圧縮するのだそうだ。漬け物石と同じ発想ではあるが、チーズ作りのこれも原点である。

 

バターを絞り出す。傍らの黒い容器にあるのは乳清



チーズ圧縮用の平石

小屋の周囲に覆ってある黒い筵状の布(写真奥に見える。その前に吊してあるのはヤクの肉と脂肪)、これはヤクの毛で編んだもので、自然の防水となっており、通風もいいのだとか。小屋の隣は自然木の囲いがある。ヤクの子を雪豹から守る囲いだとか。人間の生きる知恵、食品加工の原点を見せられて感動してしまった。作ったバターやチーズはパロなどに運び、穀物と交換する。

 キプチュさんがポケットからチーズの欠片を出す。歯も立たない堅さだ。これをブータンの人は懐中にしのばせ、時々口に入れる。溶けるのは小指の先ぐらいのもので30分くらい。このチーズは栄養補給剤、体力維持食品である。私も一番小さい一片をもらい、口に入れるがはじめは石のようで何の味もしなかったがやがて仄かなミルクの味が溶け出してきた。全部溶けるのに40分くらい掛かった。

 11:33 ヤク小屋を後に、また登り小型シャクナゲのなだらかな斜面を登る。 12:13〜13:50 ランチ(4094m) 霧が濃くたちこめる。13:14 岩山に囲まれた盆地状の草原を過ぎる。雷に焼かれた立ち木。やがて小さな池が点在する台地に出(*4000m)、そこから霧の中にキャンプ地リゴナが遠くに見える。

 森林帯に入ると一気に下りとなるが、道はぬかるみ、黄色いサクラソウが馬に踏み荒らされている。滑ったら大変だ。途中から木の間隠れに、霧に霞んで谷底に沼(REGONA LAKE, 13050ft)が黒々と横たわり、その右手の岩場から滝が落ちるのが見える。水辺には馬が数頭。原始の荒々しさと静寂が広がる不思議な風景である。



池の点在する台地よりリゴナを遠望



谷底の沼と白馬

 助っ人にやってきた馬方さん達やスタッフの助けを得て沼を渡り、キャンプ地までの狭くて急な岩の間を登る。この高低差を沼に降り立った時確かめる余裕を失ったことが悔やまれる。ここをあの馬たちは荷物を背負い登ったのだろうか。そして空荷とはいえまた水辺まで降りていったのだろうか。

 途中に林立するメコノプシス・パニクラータも横目でみるだけ、必死の急登である。14:40 第5キャンプ地リゴナ(4098m)に着く。テント後方の山のガレ場には黄色いメコノプシス・パニクラータが一杯。少し先にヤクマン小屋がある。おやつにヤクの生チーズ。夕食に「日本式」カレー(カレールーを使ったらしい)と日本のお米の御飯が出される。改めて日本人好みの味を確認し、日本のお米には粘りがあるのだと思った。
ブータン